カザフスタンの春の味ナウルズコジェ

カザフスタン

日本のお正月におせちやお雑煮があるように、中央アジアにも春分の日を祝う・ナウルズのときにだけ食べられる料理があります。
ウズベキスタンには、発芽させた小麦を水と油とともに大きな鍋で火にかけ、女性たちがかわりばんこに一昼夜混ぜ続けてつくるスマラクという甘い食べ物があります。

カザフスタンではナウルズコジェというミルクがゆがつくられます。ナウルズコジェにはカザフで大事な数字とされている”七”つの材料を入れます。その七つに何を選ぶかは地域や家庭によっても異なりますが、主に肉、穀物、乳製品などが用いられます。

ナウルズ前日のバザールの乳製品売り場は女性たちでいっぱい

 

 

 

 

カザフスタンのアルマティでナウルズを過ごしたときのこと、このナウルズコジェをめぐる悲喜こもごもがありました。

 

 

 

 

ナウルズの日には広場で様々な催しがあり、そこへ集う人たち相手にナウルズコジェを売る出店がずらりと並びます。「ほらほら。ちょっと買ってってちょうだい」というおばさんの声に誘われ、一つ買ってみました。お鍋からおたまでプラスチックのコップに注がれたコジェは白いスープで、麦やとうもころしといった穀類、細かく刻んだ肉が沈んでいます。
ほかの季節には決して食べられず、友人からも「私のお母さんがつくるナウルズコジェは本当においしくて、ああ、思い出しただけでよだれが出ちゃう」なんていう話を聞いていたものですから、わくわくしながらコジェを口に運んでみました。

 

 

 

 

すっぱい。とんがったような酸味とやぼったい穀類のもさもさ感が口に広がっていきます。そして微かに炭酸のようなしびれも感じます。そういえば、このとき一緒にいたカザフ人の友人たちは「僕は家で食べるから」などと、何のかんのと理由をつけて、だれ一人として食べようとしませんでした。
カザフスタンで食べたもののなかで一番口に合わなかったものは?と聞かれたら、私はこのナウルズコジェを挙げるでしょう。

翌日、とあるお宅でナウルズコジェをごちそうになりました。てきぱきとコジェを料理する様を見せてもらいながら、前日の顛末を話すと、こんなことを言われました。
「ちょっと考えてもごらんなさいよ。熱した乳製品に穀物、肉。それをぽかぽか陽気の外に何時間も置いてるのよ。あっという間に発酵しちゃうでしょう。ナウルズコジェっていうのはね、つくったらすぐに食べなきゃいけないのよ」

このご家庭では七つの食材に、カズ(馬肉の腸詰め)、ケスペ(小麦粉と卵からつくる麺)、麦、きび、アイラン(塩を加えた飲むヨーグルト)、水、塩を使います。レシピ自体はそう難しいものではありません。何時間も煮込んだ馬肉の腸詰めを刻んだものと、茹でた麦、きび、ケスペ、塩を馬肉のだしががよく出た煮汁のスープに入れて火にかけ、最後に田舎から運んできた新鮮なアイランを加えます。

 

 

 

 

「一年中たくさんの食べ物に恵まれて、飢えることなく健やかに過ごせるようナウルズコジェを食べるのよ。だからね、ナウルズコジェはたらふく食べなくちゃいけないの。さあできた。アク・モル・ボルスン(白い乳がたくさんもたされますように=一年豊かに過ごせるようにというナウルズの祝福の言葉)」

 

 

 

 

このナウルズコジェのおいしかったこと、おいしかったこと。馬肉スープの旨味ととろとろしたアイランのコクとほどよい酸味が、手打ち麺に絡まります。カズに練り込まれたにんにくの香りにさらに食欲がそそられます。

かくして、私にとってカザフスタンで食べたなかで一番口に合わなかったものも、一番おいしかったものもナウルズコジェとなったのでした。

 

 

 

 

それぞれの家庭にはそれぞれのナウルズコジェがあります。いつかまたナウルズの季節にカザフスタンを訪ね、ナウルズコジェの食べ比べをしてみたいものです。